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報道されている「ヘリウムガス不足」とは?原因や影響を解説

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ヘリウムガスは、バルーンを膨らませるのに使われる、パーティーグッズストアおなじみのアイテムです。空気より軽く、不燃性であるため、バルーンを浮かばせるのに用いられます。

近年、そんなヘリウムガスが世界規模で不足しており、メディアで大きく報じられています。実は、ヘリウムガスが活躍しているのはパーティーグッズ業界だけではありません。医療や工業など、幅広い分野においてなくてはならない重要な物質なのです。そのヘリウムガスが不足していることで、日本におけるヘリウムガスの輸入コストは、今や10年前のおよそ3倍にまで上昇。さまざまな業界でヘリウムガス不足による問題が起きています。

そもそもヘリウムガスとはどのようなものか、そしてなぜ不足しているのか。今後の見通しも含め、今報道されているヘリウムガス不足問題の現状を説明したいと思います。

医療や研究など多方面で使用されるヘリウムガス

ヘリウムガスは、無色・無臭・無毒であり、不燃性の安定した気体です。加えて空気より軽いという性質があります。かつてバルーンには水素が使われていましたが、空気と混ざると燃えやすい性質を持っていました。そのため、現在では不燃性のヘリウムガスがバルーンに使われており、ほかにも広告用バルーン、気球、飛行船など幅広いシーンで採用されています。

しかし、ヘリウムガスが活躍するのはバルーンだけではありません。ヘリウムガスは、軽いという特性に加え、「沸点が非常に低く、絶対零度に近いマイナス269℃まで温度が下がる」という性質を持ち合わせています。これはあらゆる物質の中でも最低の沸点であることから、ヘリウムガスは「不燃性の優秀な冷却剤」としても重宝されているのです。MRI等の医療機器の冷却、半導体の製造における冷却などがその一例で、ほかにも研究開発、ロケットの燃料タンクの清掃、自動車のエアバッグ、深海探索など多方面で用いられています。※1

ヘリウムガスは液化・圧縮されコンテナ船で日本に入荷します。画像はイメージです。

日本におけるヘリウムガスの入手経路

日本で使われているヘリウムガスは、全て海外から輸入されています。ヘリウムガスは大気中にごくわずかしか含まれない気体であり、大気中から抽出することは非常に困難です。そのため、精製方法としてはヘリウムガスの濃度が高い天然ガスから抽出するのが一般的です。しかし、このような天然ガスが取得できる井戸は地球上にごく一部しかなく、残念ながら日本には存在しません。現在、ヘリウムガスが採取できるのは、アメリカ、カタール、アルジェリア、ポーランド、ロシアなどの限られた国のみ。バルーンで親しまれているヘリウムガスですが、実は地球上ではわずかしか取れない天然希少資源なのです。

現在、日本におけるヘリウムガスの輸入先は、世界最大のヘリウムガス産出国であるアメリカが約60%、カタールが約30%となっています。しかし、昨今のヘリウムガス不足に伴い、日本への供給にも大きな影響を及ぼしています。※2

ヘリウムガスが不足している原因とは?

もともと希少資源であるヘリウムガスですが、近年ヘリウムガス不足が取り上げられるようになったのには、複数の要因があります。

要因1. 【アメリカ】ヘリウムガス生産量の減少

第一次世界大戦および第二次世界大戦の折、アメリカではヘリウムガスが防空気球に使用する気体として重宝され、ヘリウムガスの生産・貯蓄が積極的に進められてきました。その結果、今日ではアメリカは複数の天然ガス井戸を有する世界最大のヘリウムガス生産国に成長しています。

しかし、戦争が終わり1990年代に入ると、アメリカにおけるヘリウムガスの重要性は低下し始めます。加えて、ヘリウムガスの採取できる天然ガスの井戸の中には枯渇するものも出てきたうえ、ヘリウムガスの貯蓄はコストがかかることもあって、アメリカのヘリウムガス採取量は減少しつつあります。※3

さらに、もうひとつアメリカにおけるヘリウムガス生産量減少の原因として、新しい天然ガス資源であるシェールガスの開発が進んでいることが挙げられます。もともと天然ガス採取の際の副産物として産出されるようになったヘリウムガスですが、このシェールガスにはヘリウムガスがほとんど含まれていません。従って、アメリカにおけるシェールガス開発が進むほど、ヘリウムガスの産出量は減少していく可能性があるのです。

要因2. 【アメリカ】世界最大のヘリウム貯蔵施設の民営化とオークションの実施

世界で採取されているヘリウムガスのうち、アメリカのテキサス州にある政府管理下のヘリウム貯蔵施設、ワイオミング州のExxonMobil(エクソンモービル社)、そしてカタールのラスラファン工業地区の3ヶ所で全体の採取量の約75%を占めています。その中でも世界最大のヘリウムガス供給源なのがテキサス州のヘリウム貯蔵施設なのですが、アメリカ政府はこの施設を2021年の9月までに完全民営化することを決定しました。※4

そしてこの民営化を前に、政府はヘリウム貯蔵施設にストックしていたヘリウムガスを民間へ払い出すため、オークションを実施。その結果、これまでのヘリウムガスの平均販売額が$119.31/Mscfであったのに対し、2018年のオークション平均販売額は35%増となる$160.64/Mscfを記録しました。さらにこのオークションで、民間のガス販売企業であるAir Products(エアプロダクツ社)がヘリウムガスを買占めを行ったために、これまで日本がヘリウム貯蔵施設から輸入していた分のヘリウムガスの調達が困難に。日本のヘリウムガス不足に拍車をかける形となりました。※5

要因3. 【カタール】周辺国との国交断絶に伴うヘリウムガス輸出コストの上昇

カタールは、アメリカに次ぐヘリウムガス生産量を誇るアラビア半島の国です。これまでのカタールのヘリウムガス輸出ルートは、隣国サウジアラビアを経由し、アラブ首長国連邦の港から世界各国へと輸出するというもので、日本でも輸入しているヘリウムガスの約30%をカタール産に頼っていました。

しかし、2017年にサウジアラビアをはじめとする周辺国がカタールに対し、「テロ組織への支援やイランとの親密な関係」を理由に国交断絶を表明。カタールは、ヘリウムガスの輸出ルートを変更せざるを得なくなり、否応なしに輸出コストの上昇となったわけです。またこのような情勢悪化の中、今後の供給の不安定さも指摘されています。

要因4. ヘリウムガスの採取・貯蔵に伴うコストの問題

要因1の項目でも少し触れましたが、ヘリウムガスの抽出および貯蔵にはかなりのコストがかかります。もともと天然ガスとして採取したものからヘリウムガスを抽出するには、天然ガスから精製・分離する必要があり、その分余計なコストと手間がかかることになります。

またヘリウムガスは沸点が非常に低いため、貯蓄しその状態を維持するのにもコストがかかります。加えて非常に軽い気体なので一度大気中に放出されるとたちまち霧散し、再度回収するのは非常に困難です。これらのことから、「ヘリウムガスを生産してもコストに見合わない」と感じる企業は少なくないようです。

要因5. 世界規模で拡大し続けるヘリウムガスの需要

一方で、ヘリウムガスの需要は世界規模で拡大し続けています。中でも半導体の生産に力をいれている中国でヘリウムガスの需要が急速に増加。アジアを中心にヘリウムガスの需要が増え続けていることで、ヘリウムガスの高騰や、ヘリウムガスを必要とする一部の研究が滞るといった自体が発生しています。

@Party City

ヘリウムガスにおける今後の展望

現在、報道されているヘリウムガス不足は「需要の拡大に対し、ヘリウムガスの産出量が追いついていない」状態によるものです。これまでヘリウムガスは、あくまで天然ガス採掘の際の副産物として偶発的に発見され、採取されてきたものでした。しかし、世界的なヘリウムガスの需要拡大を受け、各国でヘリウムガス生産量拡大を目標とした新プロジェクトが進められています。

ロシアでは、すでに東シベリアで産出されるヘリウムガスの精製を進めており、2021年より国外への輸出を開始する見込みです。またカタールでも2020年には第3プラントが、そして将来的には第4プラントの稼働も見込まれており、今後ヘリウムガス産出量が増加することが予想されてます。アメリカでも、ヘリウムガスの新ソースを確保するためのプロジェクトが複数進められており、専門家の間でも2020年以降はヘリウムガス不足問題は改善に向かうだろうと考えられています。※6

以下の記事ではアメリカ国内でヘリウムガス不足がどのように報じられているかをレポートしています。あわせてご覧ください。

アメリカにおけるヘリウムガス関連の報道レポート (2019.4Q)

世界的なヘリウムガス不足に対する当社およびAnagramブランドの取り組みについてもご覧ください。

ヘリウムガス不足に対するアムスキャン・ジャパンの取り組み

 

【参考・出典】
※1 <NBC NEWS> Global helium shortage puts future of Party City up in the air

<大東医療ガス> ヘリウムの性質と用途

<日本ヘリウム(株)> ヘリウムを知る-業態別ヘリウムの使用用途

※2 <一般社団法人 日本産業・医療ガス協会> ヘリウムガスの作られ方

※3 <npr>  The World Is Constantly Running Out Of Helium. Here’s Why It Matters.

<Detroit Free Press>  Global helium shortage is a growing threat to graduation parties and scientific research

※4 <gasworld> Helium: Qatar mulls Helium 4 plant possibilities

<Amarillo Globe News>  Near ‘helium capital’ Amarillo, some balloon businesses deflating

※5 <大東医療ガス>  ヘリウムガスの販売停止について

<Air Products> Compressed Helium Gas & Liquid Helium

※6 <Chicago Tribune>  5 things to know about helium, the shortage and why retailers are ‘panicked’ about balloons

<CNBC NEWS>  Helium is in short supply, hitting balloons and scientific research
The worldwide helium shortage affects everything from MRIs to rockets — here’s why

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